自転車世界一周の旅日記(その11)ヨーロッパ上陸の巻
地下鉄の階段を駆け上がって外に出る。しばし茫然とした。「本物だ!」
これまで、スペインの影響下にあった中南米を半年間ずっと見てきた。メキシコシティ、リマ、ブエノスアイレス。それぞれの都市で西洋建物は見てきたが、ここは町の迫力が全然違った。重厚感がケタ違いだった。「本物だ。これが、あの南米をずっと支配してきた国なんだ。」という衝撃がドカーンときた。自分にとって初めてのヨーロッパ上陸。アメリカとは全く違う感じ方だった。
ウシュアイアからアルゼンチンの首都ブエノスアイレスに国内線で飛んだ。ラプラタ川を船で渡ってウルグアイもついでに周遊した後、スペインのマドリッドに飛行機で渡った。本当は大西洋を船で横断したいと思っていた。子供の頃見た「母を訪ねて三千里」で、主人公マルコがイタリアのジェノバからアルゼンチンに船で渡っていた。あんな旅がしたかった。学生の頃に読んだ世界一周旅行先駆者たちの紀行でも大西洋横断は船だった気がする。ブラジルかアルゼンチンからヨーロッパまで1カ月くらいかかるらしい。皿洗いでもして船賃を稼げたら最高だ・・・。でも、どこからどうやって乗るのかわからない。今ならネットで調べるところだが、当時はまだ「インターネットは調べものをする」というほどのレベルではなかった。各地のネットカフェでは日本語フォントも対応しておらず、ローマ字でメールのやりとりをしていた時代。旅の情報は口コミと宿に置いてある情報ノートがすべてだった。当時、出会った旅人はみんな飛行機で移動していた。誰も船で移動している人に出会わなかった。そんなわけで、僕もブエノスアイレスからスペインまで飛行機で飛んだ。
ガイドブックに「地下鉄グランビア駅の周辺に安宿がたくさんある」と書いてあったので、空港から地下鉄で移動してその駅で降りたのだが、そこはマドリッドの銀座ような場所でもあった。マドリッドの中心地で歴史ある建物が多い地区。たまたま町で1番すごい場所に出てきたのだから、都会に圧倒されたのも無理はないかもしれない。
そんなわけで、ヨーロッパに上陸した。まだどの国に行くかも決めていない。駅のキオスクでミシュランのスペインとヨーロッパ全図を買った。夜、ホテルで机の上に地図を広げてみる。まずはユーラシア大陸最西端に行ってみようと思った。