自転車世界一周の旅日記(その28)アジアを感じる
バルチスタンの砂漠にも、およそ100kmに1カ所くらいの割合で宿場町や一軒宿みたいなドライブインがあった。大きなドライブインのときは長距離バスも休憩していた。トラックと同じように金ピカにデコレーションされている。こんなバスに乗っての旅も刺激的に違いない。『深夜特急』の旅もバスで大陸を横断している。あの旅ではアフガニスタン経由だったはずだ。今回はアジアハイウェイだが、シルクロードもいつか行かなければと思っている。そうだ、シルクロード横断の旅はバスでやってみよう。決めた。
それにしても、相変わらず暑かった。ペットボトルの水は常にお湯だった。インスタントコーヒーの粉がそのまま水に溶けるので沸かす必要がなく、便利だったが、たまには冷たい水も飲みたい。町の中には素焼きの壺がよく店先に置いてあり、コップ(空き缶再利用のことが多い)も添えられてある。素焼きの壺の表面から少しずつ水が染み出して蒸発し、その気化熱で壺の中の水が冷たくなる仕組みらしい。もちろん冷蔵庫で冷やすほどではないが、それでもその壺の中は「お湯」ではなく「水」と呼べるくらいの温度だった。町の人も旅の人も、自由に飲むことができた。気の利いた雑貨屋では、その壺の中にコカ・コーラを瓶ごと入れてコーラを売っていた。ビールはイランに続きパキスタンでも全く飲めなかったが、そんな場所で飲む常温のコカ・コーラは大変なご馳走だった。
食堂では料理の入った鍋がいくつか並んでいて、中身を見て注文できる。カレーっぽい料理が増えてきた。インドが近くなったのだ。気になったのは、鍋の形。鍋も蓋も取っ手がついていない、非常に使いにくそうな鍋。お茶を飲むためのティーポットは緑色のホーロー製で、その形状はアジア文化が近づいたことを感じさせた。
この鍋とティーポットはこの5年後、アフリカ自転車縦断のときに再び見かけることになる。ケニアやタンザニアのローカル食堂ではこの取っ手のない鍋と皿のような蓋をよく見た。西アフリカのマリやブルキナファソでは、この小さな緑色のティーポットを見かけた。この特徴ある形の食器たち。きっと偶然ではない。はるか昔、インド洋を渡ってスワヒリ文化と一緒に伝えられたに違いない。と思うことにした。
ヨーロッパからだんだんアジアになっていく。この発見と感動はこの後も続いた。