自転車世界一周の旅日記(その33)最終回・台湾にて
インドから台湾に来ると、とても穏やかだった。もう「戦う」必要はなかった。今までは、ある程度の緊張感と構えが必要だった。台湾はもうなんというか、実家の田舎に帰ったみたいな、なんとも心休まる空気があった。極端に言うと、もう日本に帰国したみたいな気分になってしまった。
実際、コンビニに入ると日本そのままだった。コンビニ弁当はチンしてくれるし、窓際に売っている雑誌まで日本そっくり。ファッション雑誌の表紙を飾る女の子が日本人みたいと思ったら、実はモー娘の後藤真希だった。テレビをつけると、ちょうど安室奈美恵が台北のタワーレコードに来てイベントしていて大フィーバーだった。歌番組で台湾のアイドルの歌を聞いてると、サビの部分で「好きだよ」とか日本語がチラチラ聞こえることがあった。これは日本のJポップでもサビに英語を入れるノリと同じなのか?台湾は思ってた以上に日本を感じることが多々あった。
インドでたまたま台湾経由のチケットを見つけ、台湾を一周してみようかと思い付いたが、思いのほかこの島は大きかった。台北に到着後、改めて地図を買って確認したら一周すると900km以上ある。さらに西海岸は都市ばかりで自転車には面白くなさそう。それでも一周してみたかったので、西海岸は鉄道で下り、東海岸だけ自転車で走ることにした。台東から花蓮、そして基隆にいたるまでの海岸線は日本の山陰・北陸を走ってるみたいに雄大で美しい風景が続いた。国道を示す道路標識は日本と同じデザインだった。英語はほとんど使えなかったが、田舎でも日本語がそのまま使えることがあった。その昔、ここは日本だったという事実があるとしても、ここまで穏やかな形で日本を感じることができるとは思っていなかった。
自転車世界一周はまもなく終わろうとしていた。確かにアメリカから出発してアジアから戻ってきた。が、しかし。自分がこれまで通過してきた国を数えると、わずか19ヵ国だった。これで世界一周とは言えない。アメリカは西海岸の一部しか知らない。中米もワープした。ヨーロッパも地中海沿岸国だけ。なによりアフリカ大陸を走っていない。これではいかん。2001年の夏だった。
その後、身軽なバックパッカーとして、中米横断、シルクロード横断、中東アラブ諸国周遊、再び自転車でアフリカ縦断などを経て、2008年に海外ツーリングとアフリカ専門の旅行会社「道祖神」に就職。約9年間、旅の仕事をした後、2018年に退社して再びバックパッカーとしてシベリア鉄道横断の旅へ。2019年、バルコムに入社、今に至る。やっと100ヵ国を越えた。それでも、まだまだ行っていないところはたくさんある。それに比例して「もう一度行ってみたい場所や国」も増えた。
今はそんな「ここはぜひともお客様に紹介したい」と思う場所をツアーにして仕事を始めたところで新型コロナになってしまった。果たして、海外旅行が再びできるようになるのはいつに日だろうか。たとえその日は遠くても「海外の旅に出たい」という気持ちは忘れないで保ち続けていたい。
自転車世界一周日記は今回で最終回です。でも、このブログはまだまだ続きます。旅のことを考えるだけで「ドキドキワクワクする」気持ちになれることを、これからも伝えていければ、と思います。これからもよろしくお願いします。(吉岡)