自転車世界一周の旅日記(その27)パキスタン入国
国境を越えても砂漠の風景のままだったが、人の服装がガラッと変わった。シャルワーズ・カミスと呼ばれるガウンみたいな服と頭にターバンを巻くスタイルになった。半袖・短パンが良くないというのは、こんなオーブントースターみたいな太陽の下では身を守るための手段として当然のことだったのだろう。宗教云々のレベルではない。この颯爽とした民族衣装は風が吹くとパタパタと揺れてカッコ良かった。しかも涼しそうだった。
パキスタンに入って目に留まったもうひとつの風景。トラックが金ピカに装飾されていた。ゴテゴテに飾られたそれは、日本の「デコトラ」を彷彿とさせる。いや、もっとずっと派手だ。イランではリーゼント+革ジャンのヤンキーファッションが流行ってたが、パキスタンではトラック野郎が花咲いている。この国には日本の中古車・中古トラックもかなり輸入されているが、まさかデコトラのまま輸入されて独自発展したのか?いや、逆に日本のトラック野郎がパキスタンのデコトラを取り入れたのか?真相は謎のまま。おそらく両者は無関係だと思うが、この「出っ歯竹ヤリ」なデザインセンスには何か共通のスピリットが流れているに違いない。
国境を越えてすぐに町があった。砂の上にバラック小屋か布を張り巡らしただけの仮設テントだけの町だった。それでも国境の町らしく賑わっていた。まだ昼すぎだったけど、明日からバルチスタンの砂漠が続くので、町で唯一のホテルを探して休養。ホテルはテントではなく、ちゃんとしたコンクリート作りの建物だったが、これが死ぬほど暑かった。イランの砂漠は夜は涼しくなったけど、パキスタンは夜になっても暑い。コンクリートの壁や屋根や床は深夜になっても熱をもち、ベッドのマットレスも電気毛布が仕掛けてあるみたいにほんわか温かい。我慢できなくなってマットレスを剥がし、網の上に寝た。マットの上よりずっと快適だった。
このときはたまたま網の上で寝ることを開発した、と思っていた。が、実はこの後、パキスタンでは網ベッドが当たり前の風景だと知る。日本人旅行者は「縄ベッド」と呼んでいた。ベッド型の木枠に荒縄を渡しただけのもので、ハンモックとベッドの中間のようなもの。長距離トラックが立ち寄るようなドライブインや食堂では、店の前に縄ベッドが並ぶ風景が見られた。
夜、タオルを湿らせて裸の腹の上に乗せるとひんやりして気持ちよかったが、5分もすると温かくなる。そのタオルを空中でパタパタとすると放射冷却で冷たくなるので、ひたすらそれを繰り返した。いったいこの暑さはいつまで続くのだろうと朦朧としつつ。暑くて眠れない夜を無理やり寝ようともがいていた。