自転車世界一周の旅日記(その7)思いがけずアルゼンチン

自転車世界一周の旅日記(その7)思いがけずアルゼンチン

縦に長いチリ。南に行くほど白人の割合が多くなり、町はヨーロッパっぽくなっていき、物価が高くなっていった。砂漠のような荒野は無くなり、緑のブドウ畑や牧草地帯が広がる優しい風景になっていった。

プエルトモントを過ぎるとフィヨルド地形となり、太平洋側の道は繋がっていない。南米最南端への道は山を越えてアルゼンチンに入り、パタゴニアの荒野を南下することになる。どこでアルゼンチンに入れば良いか、すれ違うライダーやサイクリストから情報はもらっていた。大きな湖のあるチレ・チコという町の国境を通る予定にしていた。

風景は楽園みたいに美しかった。緑の牧場がどこまでも続き、まるで夏の北海道を走っているみたいに気持ち良かった。夕方、そろそろ宿の心配をする頃、チリの国旗を立てた小屋の前に来た。建物には警察と書いてある。ときどき見かける通常の検問所かな?と思った。「パスポートを出せ」というので渡すと、いきなりスタンプを押された。出国スタンプだった。なんと、ここは国境らしい。田舎の道だったから、道路標識も行先表示もなく、国境を意味させる看板もない。クスコでもらった地図は「南米全図」というアバウトな道だったから、細かい道はよくわからない。とにかく、どこかで道を間違えて田舎の道を走ってアルゼンチンに入ってしまった。風景は再び荒野になった。チリは快適な舗装路だったが、国境を越えると砂利道となり、はるか地平線まで続いている。ここでようやく問題に気が付く。まだチリを出国するつもりがなかった上、近くに町があることを期待していたので食料や水を積んでいない。両替もしていない。国境は免税雑貨店や両替所があるのが普通と思っていたけど、田舎の国境には警察の掘っ立て小屋しか建っていなかった。チリ南部の楽園のような生活はあっという間に過ぎ去り、冷たい風が吹き荒れるパタゴニアへ突入した。